T&Iアソシエイツ代表の田中薫です。
カーシェアリング*というビジネスアイデアを伺ったのは1990年代の終わり、あるビジネスプランコンテストの場でした。
(*カーシェアリング:Uberのサービスはライドシェアリングなどいろんな言い方をされますが、ここでは一旦カーシェアリングに統一させて頂きました)
コンテストでは、審査員から「知らない個人の車に乗りたい人がどれだけいるのか?」「同乗者をどう確保するのか?」「車をどこにどう返すのか?」「車の回転をどうよくするのか?」などいろんな質問が出たように記憶しています。
当時はまだ車は「所有する」のが当たり前。
良い車を所有することが「ステータス」でもあったでしょう。必要なら「レンタカーやタクシーで良いではないか」というのが全体の意見だったように思います。
審査員のなかには車好き・運転好きな方もいらっしゃったのでしょう。「他人の車や他人の運転なんて・・・」といった感じの方もいらっしゃいました。
一方、車に愛着も関心もなく(「移動手段のひとつ」としてしか思っていない)、運転すらしない私は単純に「面白いなあ、できたら便利なのに・・・」と思いました。
ただ、現実に事業化するにはやはり上記のような問題を解決する必要があり、出された質問や指摘は尤もでもある、とも思いました。
時代変わって、現代のUber。
経営陣や事業に関していろんな問題が指摘され、業績に不透明な面もありますが、サービスとして普及したのは事実。
既に各国で類似サービスを展開する企業も出現しています。
では、当時(1990年代末)とUberが事業を開始した2009年、何が違うのでしょうか。
この10年ほどの間にあった一番大きな変化、それはIT環境ですね。
1990年代末はデータを自由に沢山処理できる通信回線もハードもソフトもありませんでした。開発者、運転手、乗客を繋ぐ環境となるクラウドサービスやスマートフォンもなかったのです。
Uberのサービスが受け入れられた背景には、IT環境以外の要因もあるでしょう。
リーマンショック以降、雇用・所得環境が変わり、就業や消費に対する個人の意識が変わってきたこと。また、開放型のSNSが主流になり、個人が見ず知らずの個人と繋がることへの抵抗感が低下してきたこと、なども影響していると思います。
事業化にはやはりタイミングは大事ですね。早過ぎても遅すぎてもうまくいかない。
タイミングを計るには外部環境の変化に留意が必要ですが、外部環境は内部環境(自社・自分)に影響を及ぼします。どちらも状況は時々刻々と変化していくので、見極めの難度は増します。考え過ぎても考えなさ過ぎてもうまくいきません。
もちろんビジネスの成否はタイミングだけの問題ではありませんが、時間がもつ意味は従来以上に重要性を増していると思います。
今回はほぼ10年という期間で比較してみましたが、時代の変化スピードは技術進化と相まって加速度的になっています。今後、オセロゲームのように事業環境が変わっていくこともあるでしょう。
ビジネスアイデアをいつどう判断し、事業化、持続可能な形までもっていくか。
このプロセスを高速で実現することが既存事業をもつ企業、特に大手企業に求められていると思います。
この点で、大手企業が新興企業から学ぶ点は多いのではないでしょうか。
デジタルトランスフォーメーションだ、オープンイノベーションだ、という流れのなかで、内外の新興企業と連携したり、これらの企業に出資・買収したりするケースは増えています。
しかし、なかなかうまくいかないことも多いでしょう。この辺りについてはまた機会をみてコメントできればと思います。