T&Iアソシエイツ代表の田中薫です。
日経朝刊(2019/2/18 「経営の視点」の欄)に「日本の半導体業界はなぜ失速したのか」をコンパクトに纏めた記事がありました。
識者とされる内外関係者への取材から纏められた4つの敗因。
どれも半導体業界に限らず、日本の企業について長らく言われてきたことなので、もう少し咀嚼してみたいと考えました。
記事では以下4つが敗因として挙げられています。
【4つの敗因】
① 「組織と戦略の不適合」(外部のアナリストの視点)
② 「経営者の質」(当事者である企業経営者の視点)
③ 「強すぎる自前主義」(外部のアナリストの視点)
④ 「技術偏重、マーケティング軽視」(当事者である企業OBの視点)
① は半導体事業の多くが総合電機企業の一部門から始まり、事業規模が大きくなるにつれ、適切なタイミングでの投資判断と投資の実行が難しくなり、競争に負けていったことを踏まえたもの。
② は経営者のアンテナが低く、国内の競争に明け暮れ、グローバルな競争のなかでグローバルな行動もできていなかったことを踏まえたもの。
③ は海外では工場を持たないファブレス企業が出現し、スタートアップ企業の買収などで知財を拡充した企業もあったのに対し、日本企業は自前に拘ったことを踏まえたもの。
④ は技術でリードすれば勝てると思っていたが、戦略的な顧客との用途開発や需要創造が競争のカギとなっていたことに気づかなかったことを踏まえたもの。
これらを踏まえ、より他に応用しやすいよう、4つの敗因を私なりに捉え直してみました。
① は意思決定の問題(問題の所在:内部)
事業の特性と事業のステージに合った意思決定をできる状態になかった。
② は意思決定と行動の問題(問題の所在:内部)
先見性と行動力を持った経営者が乏しかった。
③ は開発スタイルの問題(問題の所在:外部→内部)
従来からの思想で自社による技術開発を優先し、オープンイノベーションのトレンドを軽視した。
④ は競争の力点の問題(問題の所在:外部→内部)
競争するうえでより考慮すべき対象が技術から用途に変わったことに気づくのが遅れた。
①②は内部発の問題です。
➂④は外部発の問題ですが、それに対応できなかったという意味では内部の問題になります。
そしていずれも先を読む、変化を読む力の不足と言えると思います。
圧倒的なリードをしていた日本企業に勝とうと思えば、他国企業は違う手を打ってくるはずです。
技術、プレイヤ、ルール、需要、あらゆるところで日々変化しています。
そうした変化のスピードに対応できず、日本の半導体企業は残念ながら失速してしまいました。
私は以前、変化の激しいベンチャー企業(今でいうスタートアップ)の栄枯盛衰を長く見てきましたが、上記の敗因は昔のベンチャー企業と似ています。
最近のスタートアップ企業は過去の失敗事例から学んでおり、様々なケアがなされていると感じています。このあたりの話はまたいつか取り上げてみたいと思います。
以前書いたかもしれませんが、かつて創業セミナーで「経営者に必要なものは何か?」と受講者に聞かれたとき、「①先見性、②決断力、➂実行力」と答えました。
事業基盤のある企業では、実行力はあっても先見性と決断力の点で負けてしまうケースは多いのではないでしょうか?
先見性が冴えていれば決断に追い込まれるので、究極的には先見性が重要になってくるでしょう。
先見性には俯瞰が必要になります。
今はリアルとサイバーが入り乱れ、業界も国も空間も超えた競争となっており、ますます俯瞰して見る範囲を広げる必要があるでしょう。
空間を、時間を、縦横無尽に思いを巡らすことが求められると思います。
変化に対応しているうちに次の変化が起きてしまう、今はそんな時代です。
アンテナを高くし、小さな変化の芽をできるだけ素早くキャッチすることが求められます。
そして、変化への対応から、変化の先読みへ、変化の創出へと速やかにステップアップする必要があります。
そこでは俯瞰しながら、内を磨くことも大切になると思います。
ちなみに、「日の丸○○」とか「○○立国」とか威勢の良い言葉が紙面を賑わしているときは要注意というのが私の個人的な経験則です(笑)
昔、「金融立国」という言葉も随分メディアに取り上げられました。
さて、日本の金融業界、その後いかがでしょうか?
J・ウェルチ氏が「脱・製造業」で金融に注力してかつて随分話題になったGEはいま・・・?
何をもって成功か失敗かはともかく、短期の視点、長期の視点、視点も視野も柔軟に持っていたいものです。しっかりとした視座をもとに。。。