T&Iアソシエイツ代表の田中薫です。
所属タレントが反社会的勢力のパーティで会社を通さない「闇営業」をしたとされる問題で揺れる吉本興業。
ここ数日に行われた2つの涙の謝罪会見は一連の騒動の転換点になりそうです。
涙の会見のひとつは会社を通すことなく開催された渦中の宮迫博之さんと田村亮さんの会見。次いでそれを受けて開かれたように映る岡本昭彦社長の会見。
後者の落涙の理由を量りかねる視聴者も多かったのではないでしょうか?
吉本興業は2010年に上場を廃止しています。
2009年に上場廃止に向けた報道が流れた時、多くの人がすぐに思いついたのは業種柄、反社会的勢力との関係が生じやすい一方、企業へのコンプライアンス強化が求められる風潮を踏まえてのことだろう、ということだったと思います。
当時も反社会的勢力に纏わる報道があり、また創業家との問題も一部報じられていました。
吉本興業に限らず、株式の非上場化と創業家からの分離にはそれぞれメリット、デメリットがあります。
昨日の社長の記者会見を見ると「果たして、???」という印象を受けました。
同社ホームページにはこれまで行ってきたコンプライアンス強化の取組が掲載されていますが、2つの会見からは「仏作って魂入れず」のように見えてしまいます。「ファミリー」という言葉もなんだか虚しく響きました。
今回の騒動にはいろんな着眼点がありました。
すべての報道に目を通しているわけでもなく、興行の業界・事業特性、吉本興業自体の特性、所属タレントらとの契約関係、今回の騒動の事実関係等について私は詳細を知る立場にありません。
それでも、今回の報道とこれまで見てきた多くの業界・企業、昨今のトレンドを比較しながら改めて考えたのは以下のようなことです。
① 経営者に求められる能力
② 権限と権力の違い
③ 個人や企業の成長ステージに合わせて求められるもの
④ それぞれの成長に対する適切なサポート体制
⑤ 企業や社員、取引関係者等の実態に即したコンプライアンス体制
⑥ コア・コンピタンスとそれを構成するもの
⑦ ステークホルダーの優先順位とそこで求められるコミュニケーション
⑧ 適切な株主構成とガバナンス体制
⑨ 時代の変化と企業の対応
⑩ 世代間における個人の意識の乖離
⑪ 副業、アウトソーシングが進むなかでの個人と企業の契約の在り方
⑫ 独禁法と下請法の適用 などなど。
実は私が長年関わっていたベンチャー業界と吉本興業のような会社は少し似たところがあります。
もちろん、私は反社会的勢力とのお付き合いは今も昔もありません。むしろ、反社会的勢力との関係はないか、コンプライアンス体制は十分か、といったことも含めて企業を審査する立場に長年ありました。
そもそも急成長する企業というのは危なっかしいところがあります。成長を急ぐあまり攻めに対して守りが甘くなりがちです。質的・量的にもそうしたことに慣れた人財に恵まれなかったりもします。
そして何より、他人が驚くようなことをする人というのは大抵常識から外れています。外れているから多くの人が面白い!と思うのです。ただ、だからといって、社会のルールに則らなくてよいということにはなりません。
ましてや企業規模が大きくなり、社会的な影響を増す存在になれば、配慮すべき対象・事象は当事者の自覚以上に大きくなっています。
最近、存在感と影響力が増し過ぎたGAFAのような企業も叩かれることが増えました。
パワハラ、セクハラなども表面化し、コンプライアンス、企業倫理に対して異議を唱え、離反する社員も出ています。
経営者は自社の成長ステージ、構成する社員の変化、社会の変化へに対応できるよう、自分も成長しなければなりません。
吉本興業はお年寄りから小さな子供までファンがあり、特に関西地域の方にとっては身近で特別な存在でしょう。事業は全国に広がり、公的な仕事も増えています。
何事も築くのには時間がかかり、失うのは一瞬です。
吉本興業は何を失ったのかを踏まえて原点回帰で再出発を求められるでしょうし、それを多くの方が期待しているでしょう。
再出発に必要なものは何でしょうか?
吉本興業のホームページにはあるものが掲載されていませんでした。そこにヒントがあると私は考えます。
一方で、吉本興業を見ながら「うちは大丈夫!」と油断しているor「吉本のようになるな!」と過剰反応している企業は大丈夫か?とも思います。
コンプライアンス強化とイノベーション創出のバランスを欠いた企業、コンプライアンスやリスクマネジメントを言い訳に新しいことに挑戦せず、管理過多で組織の活力を阻害している企業が昨今多くはないでしょうか?