T&Iアソシエイツ代表の田中 薫です。
研修講師などを通じて若者とお話をさせて頂くことがあります。
そこで痛切に感じるのが受け身の姿勢と自信のなさ、成長欲求と承認欲求の強さです。
これらは相互に関係していて、事の始まりも解決のヒントも受け身にあると思っています。
例えば、数日間にわたる新入社員研修を1クラス20名程度で行うとします。
このうち自ら質問するなど積極的に動ける受講者は1割程度です。その他の受講者は基本的に講師や他の誰かから働きかけてもらわないとまず動くことはありません。
日常的な挨拶、呼ばれたときの返事、机や椅子の整理整頓、照明・空調の調整など生活全般に至るまで細かに繰り返し指示をされないと動けないのです。
受講態度は総じて真面目です。ただ自ら発信をしない人がとても多いです。
研修では個人ワークやグループワークも行いますが、一人でわからないまま静かに悩んでいたりします。自分から周囲に聞いたり、講師に相談や確認をしたりできる人は少数です。
数日間の研修後半になってようやくグループ内の関係性が少しできて警戒心が少し薄れ、質問や意見を言えるようになる人が増える、そんなペースです。
このような状況ですから、講師側も昔のように全体に向けて講義し、「何かわからないことはありますか?」では済まないのはもちろん、グループ単位のフォローでも終われません。
講師が巡回して見て回り、一人一人異なる様子・困り具合をみて、丁寧に繰り返し声をかけないと、自分が「困っていること」すら発信できない現状には正直驚きます。
一見積極的に見える少数の受講者はグループワークでリーダー役を買って出たりしますが、少しでもうまくいかないことがあるとすぐに傷ついてしまいます。
皆とても繊細です。
彼らは常に正解を求め、失敗を嫌います。答えはひとつだと思っています。
講師や周囲に自分がどう見えるかをとても気にしています。
背景を考えたとき、親や学校の先生など周囲の人から常に自分の行く先を提示されてきたことと関係するのではないか?と思いました。
失敗しないよう、常に周りの誰かが心配して先回りをしてお膳立てをしてくれたために、自ら気づき、考え、動き、周囲に働きかける機会を失ってしまったのではないか。
いろんな人がいていろんな正解がある、失敗しても誰かが受け入れてくれる、困れば誰かに助けを求め、求めれば誰かが助けてくれる、そうした他者との関係性のなかで何かを達成した、そういう経験が乏しいのではないか。
ゆえに、自ら気づき、考え、動くという習慣が身についていないどころか、そもそもそういう発想がないのではないか。
そんな風に思い至ったとき、彼らの振る舞いは腑に落ちる気がしました。
同時に繊細な彼らの心理を想うと痛々しく感じたりもしました。
失敗したら、自分はどうなってしまうのか?
周りから受け入れてもらえないのではないか?
そんな不安を抱えていたら、新しいことへの挑戦は難しくなります。
就職すれば新しいことだらけ、わからないことだらけ。周りの人も忙しい。自ら質問や相談の発信をできなければ失敗リスクはむしろ高まります。
これまでのように先回りしてくれる「誰か」はいませんし、そもそもビジネスでは正解はひとつではありません。
真面目で繊細な彼らのなかで、職場に適応できずSOSも出さずにメンタルヘルスのバランスを崩して休職・離職してしまう人が出るのもわかるような気がします。
こうしたことも踏まえて、研修ではビジネスマナーやビジネススキルなど座学に留まらず、いろんなケースを体験してもらいます。
そしてできるだけ「想像力」を働かせてもらうよう促します。すべてのビジネスシーンを研修では教えられないので応用力を高めてもらうためです。
一連の研修を通じて私が伝えたい根底にあるものは下記です。
① 挑戦の大切さ:挑戦し続けることが自己の成長に繋がる
② 失敗の意味:挑戦には失敗はつきもの。致命的な失敗とそうでない失敗がある。本当の問題は失敗そのものではなく、失敗から立ち直れない/学べないことにある。
③ SOSの意味:困ったときにSOSを出すことは格好悪いことではなく、必要なこと。顧客や周囲を重んじれば自ずとSOSは出せるはずである。
④ 勇気の大切さ:挑戦にもSOSを出すにも必要なのは少しの勇気。勇気が自分を守り、成長させ、周囲への貢献にも繋がる。
⑤ 今とこれから、時に開き直りも笑いも大切:社会人人生は長い。若い頃の失敗は後から見れば笑い話。
今の時代の研修はハウツーの伝授より勇気づけに一番エネルギーを使います。
しかし、講師が全エネルギーを傾けて、こうしてちょっぴり自信を持ち、勇気を出せるようになった受講者も、配属先で失敗を許容したりするカルチャーがなければ繊細な彼らの小さな自信と挑戦意欲はすぐに消失してしまいます。
結局、若者が定着しやすいかどうかは職場の雰囲気、企業の風土、それを醸成する人に依存します。若者の挑戦を温かく見守り応援してくれる、適宜、関与・委任してくれる職場や会社でなければ若者は心が折れるか、会社を見切るかしてしまいます。
若者が辞めない会社には心理的安全性があります。
自由にものが言え、失敗も許容してくれる、心理的に安全な場です。これまでの研究から、心理的安全性のあるチームは成果を出せるチームであることがわかっています。
若者が辞めない会社は成果が出せる会社とも言えるのです。
心理的安全性を容易に創り出すのにはアートが有効です。
encouragement(勇気づけ)からempowerment(自律の促進)へ、さらにengagement(自律した人財の関係性による貢献)へ、その最初の一歩は心理的安全性の確認と醸成から始まります。
宜しければ以下のコラムもご参照ください。
・アートをビジネスに実装するうえで欠かせない視点~イノベーション創出を期待する前に必要なこと
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