T&Iアソシエイツ代表の田中薫です。
時々、「うちには経営理念がない」という経営者の方とお目にかかることがあります。
経営理念、ミッション、ビジョンを高らかに掲げて起業するベンチャー企業を長らくみてきた人間からすると、そうしたものがない企業を初めてみたときは少しだけ驚きました。
実は意外に多くの企業で経営理念やビジョンは掲げられていません。
こんなことを言うとアカデミックな世界の方からお叱りを受けそうですが、経営理念やビジョンがなくても経営はできるでしょうし、それらがないことが悪いとも個人的には思いません(「何をもって『経営』というか」という話と、「そもそも他人がどうこういう話ではない」という話だったりもします(苦笑)。
ただ、経営理念やビジョンはあった方が良いという考えは私も強く持っています。そして理念やビジョン策定のプロセスが非常に大事であると思っています。
なぜそう考えているかをお伝えする前に、経営理念やビジョンを必要としなかったのはどういうケースなのかを考えてみたいと思います。
それは以下のようなケースではないでしょうか?
① 会社設立時に売るべき商品・サービスと顧客が明確でそのまま事業が維持・拡大できた
② ブームに乗って勢いで起業し、そのまま事業が維持・展開できた
③ カリスマ経営者がいた
④ 小規模組織だったので阿吽の呼吸で通じた
上記4つは単独より重複して生じていることが多いと思います。
①は創業者が他の企業で磨いた腕を活かして独立したケースなどが挙げられます。独立前に在籍していた企業やその当時の関係者から仕事を下請的にもらい続けることができていれば、経営理念やビジョン策定の必要性を感じなくても不思議はありません。得意先の成長に自社の成長を重ねられた企業であれば尚更でしょう。
②も景気の波に乗り、事業を安定や成長の軌道にうまく乗せられれば経営理念を気にしないこともあるでしょう。カリスマの言動がすべての基準になる➂では経営理念がなくても物事は進むでしょう。④でもわざわざ理念を明文化する必要性は感じにくいと思います。
上記のようなケースでは経営理念が明確化されていなくても経営は可能です。
実際それで何十年と経営してこられた中堅中小企業は沢山あります。
一方で、事業拡大するなか阿吽では通じなくなった、得意先が経営不振になった、消費者のニーズが変わった、自社の製品・サービスの競争力がなくなった、競争の源泉となるものが変わった、経営危機に陥った、事業の再構築や整理が必要になった、カリスマ経営者が亡くなった、など何らかの出来事をきっかけに経営理念やビジョンを策定する企業もあります。
中堅中小企業でよくお聞きするのは経営者の交代をきっかけに策定するケースです。
創業者と二代目、三代目の後継者では置かれている経営環境が大きく異なります。親子、親族であっても創業者と後継者では周囲の見る目、受け止め方も全く異なります。
実際、「祖父や父のようなカリスマ性は自分にはなかった」「背中を見せて、ついてこい!で済む時代ではない」「親父のようなやり方では社員がついてこなかった」そのように仰る経営者の方によくお会いします。
今はリアルとサイバーが融合し、競争相手も市場動向も不明確、事業環境の変化は目まぐるしくて、これまでにない変革期にあります。大手企業ですら安泰とは言えません。
また働く人や消費者が企業に求めるものも変わってきました。
若者を中心に、経済的な収入や知名度のような基準で職を求め、所属先を選ぶのではなく、企業理念や事業活動への共感、社会への貢献度合などから職場、就職先を選ぶ人が増えています。
環境意識に代表されるように企業活動を見る消費者の目も厳しくなっています。
こうした変化を踏まえつつ、企業理念やビジョンを掲げ、人手不足のなかでも優秀な人財を確保して新たな道を切り開き、先進的な取組を行っている中堅中小企業もあります。
今は企業規模に関係なく、第二創業が求められていると思います。
VUCAの時代、皆が共に一丸となって挑戦し、困難を乗り越えていくためには経営理念、ミッションやビジョンの共有は大切です。事業領域を考えるうえでも重要です。
大手企業も自社の存在意義を問い、経営理念、ミッション、バリューといったものを見直し、再定義に動いています。
経営理念は企業の原点。
これまでにない大きな困難に遭遇したとき、大きな意思決定を求められたとき、深い迷いにあるときの最後の拠り所になります。経営者や社員、関係する人々の活動、心の拠り所にもなるでしょう。
ビジョンは目指す方向性を共有可能にします。
原点を確認し、方向性を共有することで皆で前に進むことができます。
これらを策定するうえでは外部環境、内部環境をよく整理し、見極める必要があります。
策定後の効果は社内外の関係者にとってのわかりやすさと納得感、腹落ち感によるでしょう。
WHY思考、深い内省と深い対話。そこから紡ぎ出され、一連のものが日々の活動へと繋がるストーリー。ストーリーはわかりやすさ、腹落ち感を促すと考えます。
関係者が腹落ちしたものであればこそ、理念もビジョンも言葉に力が生まれ、人の力を引き出します。生き生きとして活動に繋がります。
理念やビジョンへの共感が共働、共創、共育を生む。
第二創業が求められる今こそ、経営理念の重要性は増していると思うのです。
T&Iアソシエイツはストーリーを共に創るお手伝いをしております。