· 

北海道から『途上国日本』を考える

 

TIアソシエイツ代表の田中 薫です。

 

中国に抜かれたもののGDPは世界3位、でもいずれはインドに抜かれて、、、という大きな括りで語られがちですが、国民一人一人の実感はもうずっと以前から「世界3位」とはかけ離れたものになっているのではないでしょうか?30年程前から国内外を旅してきた経験も踏まえて、「日本は途上国に戻った」と捉えた方がわかりやすい、随分前から私はそんな風に思っています。

 

 

 下図は一人当たりGNI(国民総所得:日本居住者が国内外から1年間に得た所得の合計)を、ピックアップした他国と比較したものです。「GDP世界3位」より下図のイメージの方が日本の状況をよく表しているように思います。

 

日本は先進国or途上国?
1 人あたり GNI(国民総所得)、アトラス メソッド(実質値: 米ドル表示)

 

「安い日本、買い負ける日本」、そんな言葉がメディアで言われるようになりましたが、そうしたことはもっと早く報道されても良かったように思います。

 

現在、私は東京から北海道に移り住んでいますが、「ニセコなどはもう外国だ」という北海道民、日本人観光客の方も多いです。外国人の富裕層向け外資系ホテル、経営も働くスタッフも外国人。日本人は外国の観光客にお土産を売ったり、旅のガイドを行ったり。。。道内の回転ずしでは美味しい海鮮を安く味わえますが、そもそも富裕なうえに円安を享受している海外の観光客は道民や日本の観光客よりもずっと安い価格で美味しいお寿司を堪能できています。そんなとき、よく思い出すのが主に1990年代~2000年代初頭に旅した海外での体験や光景です。

 

➀インドネシアのバリ島やタイ、エジプトなどの観光地を牛耳るのは欧米の外資系

 このような国・地域の観光地・リゾートエリアの開発は主に欧米の外資系企業によって行われていました。欧米の資本が入った外資系ホテルが多くあり、当時まだ勢いのあった日本人の観光客も多く滞在していました。いわゆる途上国とされるバリ島やエジプトの現地の方々はこうした高級ホテルに滞在することはなく、外国人の観光客に安価なお土産を売ったりして生計を立てていました。

 

➁発展前の中国では外国人と国民で一物二価、スマイルは有料

 経済大国になる前の中国では、外国人客と国内の中国人とでは料金が異なりました。博物館や観光施設の入場料は外国人が現地の方より多く払うようになっていました。同じ商品・サービスは同じ価格、つまり一物一価ではなかったわけです。また、土産物店で買い物をしようとすると商品が奥にありそうなときでも「没有(メイヨー)、ないよ!」とぶっきらぼうに愛想なく言われる経験もしました。当時は一生懸命稼ぐ必要がない、国営系の事業者も多かったものと思います。何気ない買い物でも「スマイル(笑顔)ゼロ円、良いサービスが当たり前」に受けられる日本とは当時の中国はだいぶ異なりました。

 

職人仕事が丁寧だったイタリア、円高で安く買っていた日本人

 ユーロ統合前のイタリアのリラは安く、バブル崩壊後もなんとなくまだ元気だった1990年代の日本人はイタリアのブランドや丁寧な職人仕事のバッグや靴、美味しい食事を堪能していました。

 

以下はそんな光景を見てきた私からのメッセージです。

 

<中小事業者の皆様へ>

 

➀価格について

「良いもの、お安く」は持続可能な形であれば素晴らしいことなのですが、行き過ぎるとor主張すべきは主張しないとor顧客対象に合わせて設計を考えないと、事業や企業の持続可能性を高められなくなってしまうかもしれません。往々にして日本の中小事業者さんは長引くデフレで低価格慣れor値上げによる客離れを不安視してしまい、富裕な海外の顧客にも「お安く」ご提供しておられます。価格を維持するために質を下げては「良いもの」ではなくなってしまいます。

 

➁品質と価格、顧客との関係について:

一方で最近ではこうした事情も徐々に知られるようになり、高く売るorすべて外国人仕様にする、そんな事業者さんもお見受けします。これも一長一短あります。誰に、何を、いくらで、なぜそうするのか、今一度自社の強み、歴史、提供している価値、外国人、日本人、それぞれの顧客が求めているものを確認して頂きたいと思います。「顧客のポートフォリオ(組み合わせ)」も一考に値します。

 

ちなみに、上記のイタリアと似てスペインの中小事業者も美しい職人仕事をしていましたが、ユーロ統合以降に再び訪ねた時には価格と品質のミスマッチが起きていました。もう1990年代の、良質で気持ちの良い買い物をしようとするには相当の対価が必要orそもそもが困難になっているかもしれないと感じました。

 

バブル崩壊以降、1990年代に入っても良質なものをつくっていた作り手が、買い手の状況が厳しくなり、安く売らざるを得ない期間が長かった、その結果、作る楽しさも失われ、じわじわと品質も低下していった、買い手はそうした作り手側の事情を知らずに価格だけで比べる習慣が身についてしまった、ずっとそんな気がしていました。ただ、そうしたことが一巡して原点回帰する作り手、買い手もしばらく前から出てきてもいます。昨今、職人気質、丁寧な仕事を現在、未来に合わせて残そうとする若い方々が出てきていらっしゃるのは幸いです。

 

ちなみに、そもそも途上国と先進国という分類は「先に進んだ国が発展の途上にある国を援助する」ということが前提にあります。JETRO(日本貿易振興機構)では世界銀行や国連の分類をベースに2018-2020年基準で「発展途上国と先進国の境界線は一人当たりGNIでみて12,235米ドル(約1345,000円)」としており、この分類では日本は「途上国」ではありません。しかし、先進国というにはあまりにも寂しい様々な世界ランキングにおける日本の低迷、他の調査にも表れている国民の生活実感からすると、「先進」という言葉が本来持つ「進歩性、先進性」が感じられなくなっているのも事実でしょう。相対的に見て「途上国に戻った」と捉え直してみるのもよいのではないでしょうか?

 

いずれにしろ、これからも欧米だけでなく、アジア、オセアニア、中東、アフリカ等、広く世界を意識しながら相対的な位置を考え、取り組みを考えていく必要があるように思います。機会があれば研究開発、知的財産、人材などの面からも「日本は先進国or途上国?」を考えてみたいと思います。

 

 T&Iアソシエイツでは個人や組織の挑戦をご支援しています。AIChatGPTに相談したけれど腹落ちしない、モヤモヤが解消しない、そんなときはお気軽にご連絡ください。

 

以下のコラムも宜しければご覧ください。

トヨタイムズから考える再定義で大切なこと

第二創業と経営理念

なぜ自分ごと化は難しいのか

中小企業のデジタルトランスフォーメーション(DX